「平野遼水彩素描集」出来。

mizunowa2012-09-17

フェイスブックより転載。


10年ごしの「平野遼水彩素描集」があがってきた。
平野遼が遺した文章の凄味に魅せられ、いつになるかわからないが平野遼の書いたものを本にしたい、と平野清子夫人にお願いしたのが10年前、2002年の暮れのこと。その年に清子夫人への取材による評伝本を作ったのだが、他者の目というバイアスのかかった評伝本の限界を痛感し、やはり平野遼本人が書いたものでなければ平野遼という作家を語ることにはなりえない、と思い至った。
晩年の日記をお預かりしたのが2007年の夏。日記の抄録をいかしつつ、文章主体の本ではなく画集としての刊行に変更したのが一昨年の秋。写専同期のぷーさんと2人で収録作品の複写を3日がかりで行ったのが昨年の4月。その後、竹尾大阪支店の細川支店長から富山の山田写真製版所を紹介していただき、ポジを持参したところ、作品から直接スキャニングしたほうが印刷の質が高まるとプリンティングディレクター熊倉氏のアドヴァイスをいただいた。清子夫人にお願いして門外不出の作品をお借りして、山田写真製版所でスキャニングと画像調整をやってもらったのが昨年8月のこと。
在福岡の写真家、平川幸児氏の手になる、晩年の平野遼を写したモノクロ写真が額装してお仏壇の横に飾ってある。まさしく、事に仕えた絵描きの面魂。平川氏に問い合わせたところ、ネガごとひとまとめ平野家に寄贈したと。10年前に資料を捜索したときにネガも予備プリントも出てこなかったのはよく覚えている。清子夫人の記憶にもなく、無理して探しても出てこないだろうと。この写真を本の口絵に使いたくて、どうしてもプリント現物をお借りしたかったのだが、清子夫人が大切にしているもので門外不出の一枚。持ち出しの許諾をいただくのに1年近くかかった。今年8月初旬にお預かりして小倉から富山へ。富山滞在1日で小倉へ取って返し、無事返却。「アトリエから一歩も出たことがなかったので、いい旅行になったでしょう」と、借り出すときは少し淋しそうだった清子夫人がそう仰った。


以下、本書収録の「日記抄」より。この11月で、没後20年を迎える。

地獄の季節を私は通って
今は喘鳴する肉体を
アトリエの中にしずめている
何という美しさだ
何という心躍る悦びか……
もう何があったって絵を描きながら
くたばりたいと念じている
ランボオの苦痛を思い続ける
なにひとつ検査の結果を
知らされぬまゝ
紅葉したケヤキの中を
よろめく足で帰って来たのだ



「深夜、雷鳴のなかでしきりに鳴き続ける野犬の遠吠えに、ふと永遠を思っていた――平野遼水彩素描集」

平野遼 画・文
平野清子 編
B5変形判上製61頁(オールカラー)本体3300円+税 ISBN978-4-86426-017-6 C0071

装幀 林哲夫
プリンティングディレクター 熊倉桂三(山田写真製版所)
印刷 (株)山田写真製版所
製本 (株)渋谷文泉閣
編集協力 福島清・大原隆弘
詳細 http://www.mizunowa.com/book/book-shousai/ryo.html