虚業

【3月27日】
さて、昼メシに饂飩でも湯掻こうかのと台所に立とうとしたらケータイが鳴る。非通知設定。面倒臭いのう、うちの実家かいなと思いつつ電話を取る。
「○○商事の××です」
――はあ、ウチにそんな名前の知り合いおらんですけどの。
「ガソリンの投資の件で以前お電話しました○○商事の××です……云々」

思い出した。事務所の留守電にケータイの番号吹き込んでいる所為なのだが、去年の暮れあたり、クソくだらん営業でわざわざケータイまで追いかけて電話してきたヤツだ。こんなヤツは○○商事の××と、某週刊誌に広告を出せと某A新聞社の威光をカサに尊大な口調で電話してきて(おまけにこの男、個人名を名乗らないときたもんだ)、予算がないと云って断ったら何も云わんと電話をブチ切る(着信番号から推定するに)神奈川県の某広告屋しか考えられない。
前者について云えば、かなりどころかたいがいアタマが悪い。この手の電話営業で少しでも話をするようであれば脈ありと見るらしいが、ワシの場合、これも取材と思っておちょくっとるだけだ。後者、仮に予算があったとしても、こんな会社に広告出稿する気などさらさらない。

――はあ。仕事柄クルマには乗るけど、ガソリンスタンドとそこまでお付き合いおまへんで。
「いえいえ、ガソリンの投資です。今回、トウモロコシの投資のご案内で……資産活用の云々」
――トウモロコシだあ。ワシ、ポップコーンとか好かんのよ。あんなインコのエサ。
「投資ですよ、株式とか先物の」
――だから、トウモロコシは喰いたない云うとるやろ。
「投資ですよ。株式などの、と・う・しッ。わかりますか、投げるという字に、資産のし……」
――あのな。ワシの本業何や思うとるんや。プロの編集者がそんな言葉知らんはずないやろ。バカにすな。ぶちっ。

アタマの線が二、三本切れる前に、こちらから電話を切ってやった。腹が減ると気が短くなる。

それにしても、ノンバンクとか投資とかの営業のヤツらって、何ゆえにどいつもこいつも人を小馬鹿にしたような、というより人間の卑屈さを音声化したような、それでいて気色の悪い甘ったるい口調で統一されているのだろうか。営業マンとしての一人ひとりの顔というか、輪郭がまったく視えない。虚業ゆえか。職業に貴賤なしというが、このような輩に限っては決してそうは思わない。