言葉はいらない。

mizunowa2006-10-01

10月中旬刊、林哲夫素描・エッセイ集「読む人」(新書判182頁 定価税込1470円 ISBN4-944173-42-3 C0071)の表紙ゲラ。手前が印刷所の出力(本紙校正ではない。あくまで校正のためのプリンタ出力、である)、奧が指定原稿、右奧が束見本。29日(金)大阪は大正区の印刷所にて、けーたいでぢかめで撮影。装幀はもちろん著者本人。
「あッ、といわせる」「吃驚させる」――すなわち「何か云わせる」のがデザイナーさんの装幀だと聞いたことがある。なるほど、それに反してこの人の装幀は「言葉を失わせる」――この一点に尽きるのではないか。本屋に転業した写真屋は、勝手にそう解釈している。
ゲラ出しひとつで、はっと息を呑む。これがあるから編集者はやめられん。



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以下、サイト更新に先立って紹介しまふ。


読む人

林哲夫 著
2006年10月刊 新書判182頁
本体価格1400円 税込み1470円
ISBN4-944173-42-3 C0071 \1400E
装幀 林哲夫


[著者]
林 哲夫(はやし・てつお)
1955年香川県生れ。画家。無所属。武蔵野美術大学造形学部油絵科卒業。日本美術家連盟日本出版学会会員。1979〜80年ヨーロッパ各地に滞在。帰国後、京都、神戸に在住。震災により京都に戻る。画業のかたわら装幀を手掛け、書物雑誌『sumus』等を編集する。著者『喫茶店の時代』により第15回尾崎秀樹記念大衆文学研究賞を受賞。

著書
『文字力100』みずのわ出版、2006年
『歸らざる風景――林哲夫美術論集』みずのわ出版、2005年
『読む人』スムース文庫、2005年
『古本スケッチ帳』青弓社、2002年
『喫茶店の時代』編集工房ノア、2002年
『古本デッサン帳』青弓社、2001年
林哲夫作品集』風来舎、1992年

展覧会歴
1999 個展[空想・ガレリア、東京銀座]
   個展[Gallery Yanai、東京六本木]
2000 個展[河原町画廊、京都市
   個展[絵屋、新潟市
2002 個展[Gallery Yanai、東京六本木]
   個展[湯川書房京都市
2003 個展[河原町画廊、京都市
   個展[Gallery Yanai、東京六本木]
2005 読む人展[啓祐堂ギャラリー、東京高輪]
   装幀展[海文堂書店、神戸市]
   読む人展[Calo Bookshop and Cafe、大阪市
   書物の肖像展[東京古書会館、東京神田]
   書物の肖像展[姫路文学館、姫路市
   個展[絵屋、新潟市
   装幀展[京都パラダイス、京都市
2006 個展[岸本画廊、東京銀座]
   個展[ギャラリー島田、神戸市]


[目次]
読む人を描く
素描(160点)
読む人を描く人が書くあとがきのようなもの
読む人展日記


[まえがき「読む人を描く」より]
人はやはり人にいちばん興味惹かれるものである。画家として人物を描きたいとずっと思ってはいるのだが、モデルを頼むなどというのはどうも気後れがする。そんなとき誰でも思いつくのが街頭スケッチだろう。ただし、街頭はもちろんのこと、電車の中でも人はじっとしていない。よって、ぼんくら画家としては、自然と、眠る人や本を読んでいる人に目を向けることになる。
読む姿はきりりとして美しい。神経を集中させているせいだろうか。少々だらしないように見えても、誰もが知らず知らずのうちに絶妙のボディ・バランスを保っている。すべてが本に向かっている。
まず眉と目から描きはじめ、顔ができたら、次に本を描く。そして手だ。手がもっとも重要である。中心となる本をサポートする手は千変万化。両手で、片手で、膝の上で、顔の前で、手の形が「読む人」の性格を決定すると言ってもいい。難しいのは指である。親指で読んでいるページを抑え、ひとさし指をページとページの間に差し込み、残りの指で表紙、背を支える。これがまたとても変化に富む。新聞を読む人など、ついつい見ほれてしまうほど、あの大きな紙をタテやヨコに折り畳んだり、ひっくり返したりする手指の動きは絶妙である。対して、携帯電話を読む人は単調だ。機能性の問題なのか、手の形はほとんどみな同じであって、この点がどうもモチーフとしては物足りないが、読む人には違いないので、ある程度の人数は収録した。
「読む人」をまとめるに当たってひとつの希望があった。眺めていると本が読みたくなる、そんな本にしたいという願いである。それが実現しているかどうか、多少心許ないけれど、手にとって確かめていただければ幸いである。
なお本書は、スムース文庫版『読む人』に新作を加え再構成したものである。
著者