島の零細版元の近況。

mizunowa2012-06-12

【画像】
旬の鯵で寿司を握る。うちのかみさん撮影。


【吉田得子日記の出版祝】
「時代を駆ける――吉田得子日記1907-1945」出版を祝う会(女性の日記から学ぶ会主催)が9日に八千代市であり、8日から10日まで2泊3日で出かけてきた。参加者100人超の盛会にて、あとは本が少しくらいは売れてくれることを祈るのみ。この本に限らないが、美しい書体、読みやすいレイアウト、余白の美を求めたこともあって、660頁超の大部でもよみやすいと評判上々で、出版祝で記念講演をされた加賀美幸子さんに「一日で読みました」と云われたのは、作り手として嬉しい一言だった。
ただ、玄人がほめる本ほど、一般には売れん。そこが心配、でもある。


【島の零細版元の近況】
出版を生業にするうえで神戸から周防大島に移って不利になったこと、ぢつは皆無に等しい。強いて云ふならば、いちいち印刷所(大阪と富山の2軒)へ出掛けて行って詰めてくるわけにもいかず、メエル、ファクスと宅配便ですませてるといふことくらい。メエルのやりとりは早いし、くろねこ、ゆうぱっくも優秀やし、運送と通信の発達の御蔭は大きい。ただし、大事な写真原版の受け渡しや打合せがあるとき、年に2、3回は印刷所に行かなあかんかな、とそれくらいである。

困ったことは、月々の維持費が半分に減ったものの、取次扱いの売上げが半分どころか劇的に減ったため、しんどさは変わらんといふこと。

その分、食糧の自給で補うしかない。チシャ葉と大葉がでっかくなり、買わんですむのは助かる。胡瓜、ぷちトマト、茄子、トウモロコシ、ピーマン、枝豆、その他諸々順調に太りつつアリ。写真業は開店休業やねんけど、出版業のほうが儲からへんのになぜか忙しくて、釣りに行っとる時間がないのが困りもの。田舎の年寄りと同様に、おカネは要るんだけれども、なるべくおカネを使わない生活を心がけやうと、それ以外に手立てがない。

本を売る上での不利については、東京でやらん分には地方都市だらうが僻地だらうがまったく変わりがない。神戸で続ける意味が無くなった。見切りつけたのは正解だった。神戸にあって神戸の本を作っても、神戸の本屋が置いてもくれんのだから精がない。
6年前のことだが、「神戸の古本力」(現在品切)の紹介が神戸新聞に載って、それを読んだ人が注文してきたということで垂水区のB進堂さんから電話がかかってきたことがある。地元関係の本なのでほしいというてくる人この先もあるかもしれんし、そんなに高い本でもないから棚にさしとけば興味ある人は買うていくだらうし、この際直委託で数冊くらい預かってもらえまへんか、直委託・直精算が金銭出納上面倒やったら一定期間預けて残品持ち帰り実売分だけ取次に伝票切替しまっせと云うたんだが、「いえ、今回の1冊だけで結構です」とけんもほろろに断られた。こんなことが続いたのでアホらしなって、書店営業はやめにした。そんなこともあった。

元町の海文堂さんへの直委託は続けているのだが、ほんまに、何を預けても売れんやうになった。新刊が売れへんこともあってそこそこ客の呼べる古本イベント続けてやってはるんだらうけど、新刊作っとる版元としては精がない。古本は古本屋に任せて、新刊本屋は新刊を一所懸命に売ってほしいんだけどな。でもこれは、海文堂さんだけが落ち込んでるんではなく、神戸といふ町じたいが、また、本をめぐる業界自体が、もうアカンやうになっとる。さういうことなんだらう。
結局、うちらみたいに新刊作っとる版元は、新刊を売ってもらわな話にならん。新刊本屋かて取次かて新刊売ってなんぼのはずなんだが、なんでこないに反応がないのか。3.11以降ターボエンジン並みに加速ついた感があるんだが、このモチベーションの下がり方は異様だ。

やっぱり、新刊本屋が古本屋の真似事しとったらアカン。本作りもそれがあるかもしれん。現代のこの社会に生きているのだから、古いものの復刊も大事やけどそればっかになってはいかん。それよりも、いまを生きている書き手・撮り手の作品を世に出していくべきである。そして、古いものを出すのなら、資料性の高いもの、且つ今の時代に向けて新刊として問うべきものであらねばならぬ。そうでなければ、次の世代につながっていかん。


結局のところ、版元はまともな本を作る以外にない。今年は年間10点が目標、である。


■今年の既刊一覧
印南敏秀編「里海の自然と生活2――三河湾の海里山」2940円 http://d.hatena.ne.jp/mizunowa/20120412
山口県立大学国際文化学部フィールドワーク実践論チーム編「キャンパスを飛び出そう――フィールドワークの海に漕ぎだすあなたへ」1680円 http://d.hatena.ne.jp/mizunowa/20120319
女性の日記から学ぶ会編/島利栄子・西村榮雄編集責任「時代を駆ける――吉田得子日記1907-1945」10500円 http://d.hatena.ne.jp/mizunowa/20120528
岩崎芳生「評伝 海野光弘――風と光への旅立ち」2415円 http://d.hatena.ne.jp/mizunowa/20120611  http://d.hatena.ne.jp/mizunowa/20120530

  *8〜9月を目処にサイトのリニューアルを予定。それまで、新刊情報は当blogでお知らせしたいと思います。