「長寿社会を生きぬくために」出来。

mizunowa2013-03-12

新刊出来。



長寿社会を生きぬくために――医療と健康をめぐる66講
江里健輔 著 みずのわ出版 刊
2013年3月刊 四六判並製253頁
本体1500円+税 ISBN978-4-86426-020-6 C0036
装幀 林哲夫
印刷製本 (株)国際印刷出版研究所



目次
はじめに
第1講 「やせましたね」
第2講 自動体外式除細動器
第3講 アメリカの医療は日本より良いか?
第4講 歳をとっても老けたくない
第5講 歳を考えよ
第6講 未病のうちに
第7講 お婆ちゃんの試み
第8講 勤務医を辞める理由
第9講 社会経済的地位が低いほど死亡率が高くなる
第10講 アガリスクでも
第11講 寂しいTV番組
第12講 医療と教職員精神疾患
第13講 長生き出来ない、タバコを吸う人と一緒では
第14講 返還すればすむ問題ですか?
第15講 コーヒーと健康
第16講 健康寿命
第17講 虐待
第18講 何故、手を握るの
第19講 病院の本質は何か?
第20講 金持ちが長生きするって、ほんと?
第21講 貴方の二〇年後の体調は?
第22講 妻の教育レベルが夫の寿命に関係する?
第23講 食事の順序と血糖値
第24講 百寿まで生きるには
第25講 向こう三軒のネットワーク
第26講 夏バテ克服に水分補給を
第27講 世界の年間死亡数の一割が運動不足
第28講 生老病死
第29講 このギャップに悩んでいます
第30講 ある末期患者の言葉――真の意味
第31講 幸せ感を低下させない医療費の抑制
第32講 終末期における人間の本性
第33講 せめて木の葉の気持ちに
第34講 言葉を形にして下さい
第35講 なぜ、魚は動脈硬化を抑制するのか?
第36講 とんでもない医師
第37講 社会福祉士を考える
第38講 日本の医療、光と影
第39講 増えるトータルケア、細る支え手
第40講 CT検査による放射線被曝量と原発
第41講 のんびり、気楽な暮らしで短命に
第42講 人権を考える――医療の立場より
第43講 「看板に偽りあり」――一外科医の思い
第44講 選択は与えられた情報で変わるか
第45講 治療の効果を半減させる生活の不摂生
第46講 何故、桜が好まれるのか?
第47講 膝が痛ければ動かそう
第48講 最後まで希望を持たせよう
第49講 文明が人間関係を疎遠にする
第50講 四つの習慣で一四年も長生き
第51講 お見舞いも患者さん中心に
第52講 女性の喫煙率が高まっている
第53講 何故、肥満が良くないのか?
第54講 声楽家甲状腺ガン
第55講 ご存じですか? 活性酸素
第56講 転院の意味
第57講 人の臓器機能は必ず低下する
第58講 太らないようにするには
第59講 心のこもった対応とは?
第60講 気持のよい音楽を聴こう
第61講 オムツ離れとオムツ始め
第62講 すぐ薬を飲まない
第63講 サプリメントは効くの?
第64講 改正臓器移植法成立に思う
第65講 一人ものは早死する?
第66講 親の背を見て育つ
索引



はじめに
 医学・医療が進歩するにつれて、疾病の原因・治療法が解明され、多くの人々は安堵する筈であったが、疾病への戸惑いと不安は益々大きくなるばかりである。このいたちごっこは人間の寿命が限られているかぎり、際限なく続き、解消することはない。
 昭和40年代までは「生老病死」のうち、問題は「生」と「死」であった。当時は、胃癌になってしまうと、それが終末であった。手術を受ける患者さんの多くが進行ガンで、根治手術となる例は極めて稀で、抗がん剤も効果がなかった。したがって手術も、患者さんに負担をかけることなく周囲リンパ節を摘出するかが、外科医の腕のみせどころであった。その為に、手術が6時間以上になるのは当たりまえで、それに伴い、出血量も増えるなど、手術の弊害も多く、予期せぬ結果になることがしばしばあった。しかし、平成時代に入ると、ガンを初めとするあらゆる手術も患者さんに負担をかけないで、早期に社会復帰出来るような手術が推奨されるようになった一方で、診断学が進歩し、早期ガンをはじめいろいろな疾患に多種多様な治療を集学的に行うことで、病気から解放されるようになった。さらにその一方で、たとえば一人の患者さんが胃ガンを患い、更に、肺ガン、前立腺ガンを患うといったケースが増えてきた。長寿社会の到来である。ここにきて、「老」と「病」が人々を悩ますようになった。
 ガンが人生の終末でなくなり、生活習慣病という新しい概念が生まれた。その代表的なものが動脈硬化症である。動脈硬化は高血圧、糖尿病、高脂血症、肥満を原因として起こるもので、可逆性でない、所謂「老」と「病」との闘いである。「老」と「病」からの脱却、即ち、動脈硬化にならないようにする適切な生活様式が興味の中心となってきた。日々の生活、食事、運動、サプリメント、ストレスなど、いずれも動脈硬化に直結するだけに、その予防法を取り入れることがテレビ、新聞、健康セミナーを始めとする各種会合などで取り上げられる様になった。
 そもそも、健康は与えられるものではなく、獲得するものである。しかし、多くの人にはこの認識がほとんどない。ちょっとでも体調が悪いと薬に頼るが、体調不良を引き起こしている原因を突き止め、改善しようとする姿勢は稀薄である。特に、不良な生活習慣が大きな原因となっている動脈硬化症などは、生活習慣を変えることで進行をかなり遅らせることが出来るものであるが、それがなされていない。例えば、欧米などでは禁煙しない限り、動脈硬化の治療は行わないし、国民も積極的に運動を取り入れるなど、生活習慣の改善に努力を払っているが、本邦では自分で健康を獲得する努力をせずに、他人任せの人は多い。
 本書では、「健康は与えられるものではなく、自分で獲得するもの」であるという著者の理念のもとに書きとどめた随筆を冊子としてまとめたものである。
 35代アメリカ大統領は就任演説で「国が貴方に何が出来るかを問い給うな。あなたが国に何が出来るかを問い給え」と述べた。このフレーズに多くのアメリカ国民が熱狂したが、医療も同じである。「医療が貴方に何が出来るかを問い給うな。あなたが医療に何が出来るかを問い給え」と言いたい。医療は病気を治す手伝いは出来るが、治すのはあなた自身である。あなたに治す「気」がなければ、薬も、手術も期待通りの結果をもたらさないと思うべきである。
 本書がその「気」を起こさせる一助となれば、望外の幸せである。



著者
江里健輔(えさと・けんすけ)
1939年1月、山口県生まれ。山口県立大津高等学校、山口県医科大学(現・山口大学医学部)卒業。山口大学医学部附属病院材料部長、同病院中央材料部、同病院長、第31回日本心臓血管外科学会会長、山口大学評議員山口県立中央病院(現・山口県総合医療センター)院長など歴任。山口大学名誉教授、青島大学(中国)名誉教授。2006年4月より、公立大学法人山口県立大学理事長(学長)に就任し、現在に至る。著書「白衣からこぼれ落ちた木の葉髪――医療へのつぶやき」(私家版、2007年)、「白衣を揺らす癒しのそよ風」(文藝春秋企画出版部、2008年)。