無人島 生の痕跡

mizunowa2006-10-18

宮本常一 旅の原景――なぎさの記憶2」
写真 田中慎二・荒木肇/文 佐田尾信作
ジャケット写真 愛媛県由利島(撮影=荒木肇)
装幀 林哲夫

去年作った第2次オビに「自然は寂しい しかし人の手が加わると あたたかくなる」という宮本常一の言葉を入れた。写真15点オールカラー。磯漁、木造ミカン船、鯛一本釣り、スナメリ等々、作り手が云うのもアレだが、それぞれ印象深い。
ジャケット写真は愛媛県忽那諸島・由利島の人工の入り江で、戦時中監視廠を置いた旧海軍が船が入れるよう開削した(本書「無人島 生の痕跡」の項参照)。かつて鰯網漁で賑わったこの島もいまは無人島だが、宮本常一が訪れた当時は夫婦40組が住んでいた。わずか50年、そんなに昔の話ではない。

中国新聞2005年7月31日付、より
[評者]河瀬直美映画作家

潮の香りのする本に出あった。かつてそこを訪れた記憶を回帰するような、そんな狂おしいこころもちになる一冊だ。どおりで、無人島に公衆電話があるなんて素敵な話が載っている。
愛媛は松山市に属する由利島のこと。昭和30年代に15戸の人家のためにひかれた一本の電話の海底ケーブルは、今、赤錆びて朽ちるのを待つ。木造の電話ボックスも同じ運命を背負う。
無人島になってからもしばらくは回線がつながっていたのだという電話。生きていた電話ボックス。どこかの漁船になにかあったときにこの電話を使ってSOSを出せるためのもの。瀬戸内の人々の想いのつまった形跡。人と人をつなぐものの形跡は、見知らぬ土地に暮らす、とあるわたしやあなたにも通じる。そう、それはかけがえのないものとのたち難きつながりを想うように。
ひとは訪れたひとになにがしかのつながりを求め、ひとときの時間を共有しながら自らの土地の食をわけ与える。茶粥の味が忘れられずにいる書き手もまた、つながりをたち切れないひとりなのだ。それが生まれ育ったふるさとならなおさら、どこかよそへ行ってしまっても必ずその光景や匂いは心のどこかに残っていて、ふとした拍子にたち現れる。もしくはその呪縛のようなものから逃れられずに、生涯、そのものとともに生き続ける覚悟を背負う人もいる。
 わたしは数年前、映画撮影のためにふるさと奈良の上空をヘリで飛んだ。そのとき、眼下に見たふるさとは非常にちっぽけだった。けれどそれと同時に、こんなちっぽけな場所にいる自分のこころの宇宙を想った。その相反する想いのさきには、不思議とやすらぎがあった。ものごとにはあらゆる見方があるのだよ。そう言いながら包み込んでくれたふるさとへの絶大なる信頼。
 同じような想いを抱いたろうか。安全の代償に恵みも断ち切る防波堤を空から眺めた宮本常一という人。その神様のようなまなざしに魅了された書き手が、いまを生きるわたしたちに警告を発しながら、同時に気付きを与える不器用な一冊を世に誕生させた。

本の詳細は以下のサイトをご覧ください。
http://www.mizunowa.com/book/book-shousai/genkei-nagisa2.html


「神戸の古本力」
11月23日に海文堂書店で開催する三筺古本市に合わせて刊行予定の「神戸の古本力」本文指定を昨夜遅く、というより本日未明に仕上げ、エクスパックで発送する。
仕事と私事で週末まで机に向かえない。だったらその間に印刷所で文字だけでもゲラにしてもらい、手が空いたところで校正と図版の指定にあたった方が、少しでも前に進められる。これを指して見切り発車ともいうが。

さて、これから広島行ぢゃ。以下の学習会で本を売る。

宮本常一あるくみるきくの会 発足記念講演会
日時 10月18日(水)午後6時〜 
会場 広島市まちづくり市民交流プラザ(広島市中区袋町6-36「袋町」電停から徒歩3分)
演題 宮本常一先生と広島――その縁とともに半世紀
講師 神田三亀男さん(民俗学者歌人広島県府中町在住)
参加費 1回500円
*会場で受け付けします。座学とフィールドワークを交え、民俗学者宮本常一の足跡をたどる活動をします。
仮事務局 Tel 082-239-1819 Fax 239-2142(藤川昌寛方)