読む漬物石。

mizunowa2006-07-24

【7月24日】
福島清著「男達の神話」(小社刊、3500円+税)が、市場でやっと動き出した。7月20日朝日新聞夕刊文化面に記事が出たのが発端。文芸ものなんてそうそう動くものではない。ありがたや。
昼前に地方・小出版流通センターから補充の連絡が入った。5冊残っていた在庫がいっぺんにはけた、現在3冊注文が入っている、と。もう少しは出るだろうということで20冊補充。高い本だけに返品がきたら痛いのだが……ええか、絶対に戻ってくんなよと願を掛けて送り出す。
500頁、50万字の大作。読む漬物石。高い本だが、1文字あたりの単価は安いゾ!
ダマされたと思ってぜひご一読を。



朝日新聞夕刊 2006年7月20日付 文化面
 テーブルトーク  画家 福島清さん(58)
 男の子に「男」への道、50万字で

500頁、50万字の大部『男達の神話』は58年の人生を書きつづった自伝だ。「今の時代に『聖書』を一つ残してやろうと思いまして」。聖書? 大きく出られましたねと返すと「何も大きいことないわな」と奧目がちの目が光った。
6年前、神経症を患い、「人間ってどないしたらうまく死ぬことができるのか」と突き詰めた。「結局はうまく生きることや」。芸者を母とし、父の記憶はなく、あかんたれな少年が芸術と登山に出あい、自分の脳みそと腕力を磨き上げていく姿を描くことで、生き惑う男の子たちに道を示せるのではと考えた。
一流の審美眼を持つ画家でかつ登山家の日記、となれば、へんこ(偏屈を指す関西弁―引用者註)でマッチョ。なのに、無類におもしろい。母をとりまく無頼の男たち、絵を教えてくれた生田中学の師、山の仲間……出てくる男たちは、みな魅力的で、描写は細かな部分までありありと目に浮かぶよう。読んでいる端から頭の中で映像が走り出す。
主人公の情けなさも突き放して描く。大学は除籍。友の死後、山から足が遠のき、大阪府警を受験。落ちて府警の本部長に面会を求め、「府警(うち)に三度も捕まっている人の採用は難しくてねぇ……」と言われてしまうくだりなど、笑いと涙なしに読めない。
後半は、美しい描線で自画像を描いたといわれる神戸連続児童殺傷事件の容疑者に思いを寄せ、多くのページを割いた。「人には、正しく闇を見据え、正しく悩まなければ希望(光)が生じない」「哲学しながら生きる大人になるしかない」。男をつくる「FK(福島清)学校」の校長から少年たちへの伝言である。
(阿久沢悦子 署名記事)