周防大島の豆茶と茶粥。

エビスグサ(豆茶)の花。

発芽。

豆茶。

豆茶(世間一般では「はぶ茶」)について、問合せの入ることがたまにある。
小社では、豆茶の産直を不定期で継続している。道の駅や農協の直売所より高いめの価格設定である。莢剥き、焙煎の手間が大きい。バカ安特価では持ち出しになってしまう。かといってあまり高い値段はつけられない。ゆえに、大した儲けにならない。
市販の豆茶は焙煎が浅すぎる。ガス代をケチっているのかもしれない。これでは美味かろう筈がない。
スーパーなどでは中国産の「はぶ茶」が広く出回っている。同じ「はぶ茶」ではあるが、ワシが作る豆茶とはまるで別ものである。種子の形状や大きさも微妙に異なる。北米大陸から中国を経て日本に入って来たものだが、長年の栽培により大島の気候風土に合ったものに変化してきたのだろう。
こぼれた種子から発芽、畑のへりで勝手に育つので、特に世話は要らない。年寄りが亡くなった、核家族、共働き、家庭菜園を作らない家が増えた、などにより、豆茶を作る家が減っている。大島に住んでいても、豆茶とか茶粥を知らない人が少なくない。こうして地域の食文化は廃れていく。
みかん畑の中に生えてきたんだが、これって何なのか? と、新規就農者に訊ねられたことがある。これは豆茶よ、あれば役に立つよ、でも豆茶は肥しを食うからその分みかんに強いめに肥しをふっておくとか、農薬がかかるとよろしくないからドリフト(飛散)に注意するとか豆茶の生育期に農薬そのものを外すとか、諸々工夫が要るよと教えた。どうなったかねと後日訊ねたところ、全部刈り取ったと言うていた。アグリ・インダストリアル(農・産業)ということ、みかん以外に関心が向かないってのも何だかつまんねえことよ……と思ったりもした。


以下、小社の豆茶販売案内より転載。

豆茶の沸かし方
小社の豆茶は、焙烙(ほうろく)で1時間焙煎して味と香りを引き出している(市販品はおしなべて焙煎不足である)。ティースプーン2杯(約5グラム)の豆を市販のお茶パックに入れ、2リットルのやかんに入れる。水から沸かす。沸騰したら吹きこぼれない程度に火を弱めて、5分程度煮出す。ホットでもアイスでも美味しい。やかんに入れっぱなしにして、だんだん濃くなる味の変化を楽しむのもよい。周防大島の伝統的食文化の一つ、上質なコーヒーに通ずる香りがある。

周防大島ソウルフード、茶粥の作り方
茶粥の食文化は和歌山県奈良県、瀬戸内島嶼部に広がるが、それぞれ作り方に違いがある。ティースプーン4杯(約10グラム)の豆を、市販のお茶パックに入れる。水1升とお茶パックを深めの鍋に入れて沸かす(豆茶のほぼ倍の濃さで沸かすことになる)。沸騰後数分煮立ててお茶が十分に出たところで、白米(ぬめりがうまみとなる。米をといではいけない)1合3杓を入れる。具材としてイモ、団子などを入れる場合は、白米の量を1合程度に減らす。火加減は、初めから終わりまで強火で通す。火力が弱いと美味しく炊けない。サツマイモ、カンコロ団子、米団子、メリケン団子などを入れる場合は、米を投入して10分くらい後に入れる。サツマイモは割るイメージで切る。あぶくが落ち着いてきたら出来上がり。最後にお茶パックを取り出す。炊きあがりの米が少し硬いくらいが美味しい。米の腹が割れるのは煮過ぎ。個々の好みもあるが、仕上がり加減が難しい。米とお茶との比率もまた難しい。

蘊蓄
豆茶は一般には「はぶ茶」と呼ばれるが、ハブ草とは別ものである。ここでいう豆茶とは、エビスグサの種子を指す。漢方では決明子ケツメイシ)という生薬で、便秘、排尿障害、目の充血、高脂血症・高血圧など生活習慣病の予防や改善に効果があるとされる。北米原産の一年草で、中国を経て日本に伝わった。江戸期の百科事典「和漢三才図絵」にも記載がある。ちなみに、カワラケツメイとはまた別ものである。

追記。
拙著「本とみかんと子育てと」に、豆茶と茶粥の食文化が明治期周防大島から対馬へ伝播した経緯を記している(2020年3月、対馬取材行)。